限りなき思ひのままに夜もこむ夢路をさへに人はとがめじ
(恋歌三 657)
(私訳)
恋しくてたまらない心のままに
あの人の夢を訪れよう
夢へ行く事までは
人に批判されないよね
(語句説明)
限りなき
(限りなく)
思ひのままに
((恋しい)思いにまかせて。「思ひ」の「ひ」を火の掛詞とし、燃えるような思いを表現しているという説あり)
夜もこむ
(夜道でも行こう(=あの人の夢を訪れよう))
夢路をさへに
(夢へ訪れる道(を行く事)までは)
人はとがめじ
(世間の人は批判しないだろう)
(解説?)
古代の人は、夢を霊的で神秘的なものと考えていたようです。自分を恋している人の魂が自分の夢を訪れる事もあれば、この歌のように、恋しく思う自分の魂が相手の夢を訪れることもあると考えていたようです。
小野小町が仁明天皇の更衣(天皇の婦人の中では身分が低い方に属する)だったという説があります。それを信じるとすれば、どうも「人はとがめじ」の「人」は、他の天皇の婦人たち(女御など)のような気もするのですが、いかがでしょうか?
656が女の側から歌ったとして、657、658は、(小野小町作ではあるが)男が656に答えた形で歌ったという説(参考文献6)があり、それに対して(参考文献7)では、656、657、658全てがが女の側から歌ったとしています。
ちなみに、小町集では、656、657、658はなぜかばらばらに配列され、一部言葉が異なっています。(参考文献9)